ONE PIECE 第229話

“メシを食おう”を読み返しました。

 

クリケットさんによる空島講座。

 

この人ももちろん行ったことはないので、10年の潜水生活の間に集めた情報だと思われる。それでも空島にジャヤの片割れが吹っ飛んでるとかは想像もできなかったのはまぁ自然だ。と言うことで突然来る夜が雲の化石“積帝雲”で、行くのには突き上げる海流(ノックアップストリーム)に乗るしかない、ことまで教えてくれる。

 

ちょっと都合良すぎない?

 

と、読者も思うところなのたが、ルフィは当然あっさり信じて行く気なのでここに疑義を唱える役目はウソップになる。損な役回りだが、大爆発で災害みたいな海流に乗って空まで打ち上げられてうまく空島がなかったら落ちね海の藻屑とか言う話も彼がちゃんとビビってくれないとリアリティに欠ける。

 

こりゃ無理だぜ

なにせ おめェ

ラッキーの中のラッキーの中の

ラッキーの中のラッキーぐらいの

ラッキー野郎じゃなきゃ行けねェって話だ

 

読者はルフィが主人公でラッキー野郎であることを了解している訳だが、ここからナミと協力して空島断念を説得するページになる。メリー号はボロボロ、ログポースの関係で島に滞在してられる時間は1日程度、ノックアップストリームと積帝雲が重なる日付はいつか、と気になる点を潰して行くと、ぴったり明日が予定日。なんたるラッキー。

 

ウ…ウソだろ!!!

 

ア!?

 

と言うことでクリケットさんに禁句であるウソつき呼ばわりを繰り出すウソつき野郎ウソップが出る訳です。なかなか嫌な気分になるシーン。しかし勇敢なる海の戦士になる過程でやはり通過せざるを得ない恐怖との戦いでもある。

 

そしてそれはクリケットさんもわかってる。

 

おれは お前らみたいなバカに会えて嬉しいんだ

さァ 一緒にメシを食おう

今日は家でゆっくりしていけよ

同志よ

 

今日会ったばかりで親切すぎる、ということまで含めて、見ず知らずの他人ではなく、自分の事情を伝えた相手が怯えるのは当然だと元海賊の船長として若い海賊を見てきたであろうおっさんの含蓄がここにでている。渋い。

 

ナミ…おれはミジメで腰抜けか?

 

おまけにマヌケね…気持ちはわかるわよ

ちゃんと謝んなさい

 

クリケットさんに悪意はない。その上で運任せでほぼ死ぬようなロマンを追う提案をしている。だからこそウソつき呼ばわりされても怒りはしない。黄金郷を探すのも空島を目指すのも命懸けで、それは海賊である以上は引き受けるべき事柄なのだ。海賊が夢を見るのをやめるということはここで安全策を取り空に行かないことを意味してる。

 

それでは海賊王になれない。

 

ストーリー的にもそうだし、精神的にもそうなっている。クリケットさんの家で酒盛りをするのも命懸けの一瞬に生きる男たちなりの餞別であり、一瞬一瞬を楽しく生きる海賊の生き方でもある。

 

『髑髏の右目に黄金を見た』

 

ノーランドの残した日誌の最期の文章、涙で滲んでるその答え。クリケットさんはたぶんジャヤの半分が海に沈んでると思ってる。ノーランドの言葉を結局は信じてるんだなと言うエピソードであり、それが決闘の相手に対する礼儀なのだろう。まさか空とは思わんよな。島ごとぶっ飛ばしてました、はオチを知っててもそりゃ想像できんと納得できる。このバランス。