“ビビの冒険”を読み返しました。
少しだけ
冒険をしました
アラバスタ編がついに完結する23巻ラスト。イガラムがうっかり王女に地下組織の存在を喋ってしまったことが発端となりビビは死なない覚悟で潜入へと踏み出した。結果的には国を救う海賊を仲間に帰国できたけど、ルフィたちがあのタイミングで通りかかってなかったら国が滅ぶ瞬間に間に合いもしなかっただろう。
ビビはそれをわかっている。
立志式のスピーチは国民に向けて直接的な単語ではないにしても麦わらの一味の存在を伝えようとするものだった。自分の力ではなく、王家の力でもなく、海軍の力でもなく、アラバスタは海賊によって救われたのだ。
…………歴史はやがてこれを幻と呼ぶけれど
私にはそれだけが真実
このスピーチによって布石は打たれた。世界がひっくり返るとき、海賊王ルフィが誕生するときにはおそらく一味がやってきたことの全ては白日の下に晒される。そしてアラバスタの一件は海賊王の名声の一つとして、世界政府が幻にできなくなる歴史になっていなきゃならないと思う。世界がひっくり返ると言うのはひとつには歴史の話だろう。それは価値観を変えるものだから。
だからロビンがいるし、ポーネグリフもある。
アラバスタ編のライブ感な部分と、強固なプロットの部分。その交わった一点が呼び込む名場面がビビとの別れである。宮殿には責任者イガラムを女装で配し、東の港に姿を現し、カルーと共に王女の姿で見送りにくる。海軍に姿を見られるリスクを負いつつも、きちんと別れを告げるという物語のスジを通すべく。
冒険はまだしたいけど
私はやっぱりこの国を
愛してるから!!!!
全読者が納得するしかない理由であり、ルフィもきっちりそう言われれば受け入れる。行かない言い訳を探していたチョッパーとの対比でもある。登場タイミング的にエースの最期のセリフとも関連しそうだがそこはすごく先の話になるので、意味合いはちょっと変わる気もする。
いつかまた会えたら!!!
もう一度 仲間と呼んでくれますか!!!?
で、ここはさらに感情が突っ走った形。国を愛しながら王女が海賊と繋がってた証拠を海軍に与えかねない問い。どうなんだろうね? ここでもしルフィがゴムゴムで腕を伸ばしてたら掴んじゃいそうな感じもある。王女ビビとしてはお別れを言いにきたけど、攫われるならそれも悪くないぐらいは思ってたんじゃないかとも思う。
愛する国を救った海賊に連れてかれるなら。
黙って別れて諦めるか、誘拐されるか、サブタイトルのビビの冒険ってのはこの点に集約されてる気がする。自分の気持ちは伝えた。あとはルフィに任せようと言う女の子っぽさ。そこに第3の答えとして左腕のしるしと言う伏線が刺さってくる。風呂も入ったし、まず風呂の時とか消えてるし、書き直したぐらいのあれなんだが、涙腺はもうダメである。何度も読んでるのにウルっとくる。
かくしてONE PIECEは名作になった。
愛別離苦、出会いと別れ。楽しい冒険ロマンから作品として一段階登った瞬間である。ここから空島編へ、尾田栄一郎の筆致は確かな手応えを掴んでると思う。全盛期と言うやつだ。ロビン仲間入り、黒ひげ登場、ある意味で結末に向けてしっかり走り出している。しかし予想以上に連載が長期化することによって山あり谷ありも待つわけだ。23巻は2002年4月9日第1刷。ここから18年もラストスパートはできない。