呪術廻戦 作者が主人公を苦手とぶっちゃけちゃって心配になる8巻9巻

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薄々感じてたけどね、虎杖が作中で異質すぎること。

 

よくある話ではある。

 

エンタメ作品の主人公に求められるものは最低限『嫌われない』キャラであることだ。好かれるとか感情移入できるとかは実際のところそこまで重要じゃない。目的と動機さえ理解されれば物語の主人公であることは受け止められるし、あとはお話の面白さが優先される。

 

しかし、嫌われないキャラ造形は実は面白くない。

 

正確に言えばあんまり面白い事をさせられない。革新的なプロットがあるならオーソドックスな主人公を配置しても問題はないのだけど、この物語が氾濫する世の中にそうそう革新的なプロットなど残されてはいない。先人たちの通った道をいかに時代にあった形で走るか、魅せ方で勝負するのが現代のエンタメである。その意味で嫌われない主人公はあんまり冒険ができないが故に基本的には避けたい要素でもあるのだ。

 

でも嫌われると話なんか読んでもらえない。

 

少年ジャンプはそこのせめぎ合いが業界随一で激しい雑誌だと思う。嫌われない主人公でありながらギリギリを冒険して、踏み外して消えていく作品がまぁ多い。最近で言えば神緒ゆいは髪を結いだろうか。読んでいけば主人公がいいヤツに見えてくるのだが、そこまでが長すぎた。週刊誌読者は読み返さない。スケバンバトルは面白かったことを考えれば、主人公がなんやかやでスケバンに変身するぐらいの思い切った設定をぶちこむべきだっただろうと惜しんでいる。

 

スケバンの話は無関係でもない。

 

この作品の登場人物のほとんどはぶっちぎりで嫌われるキャラ造形を推している。五条は言うまでもなく、伏黒も釘崎も第一印象が良いタイプではなく、一見嫌な感じだけど実は違う、という組み立てでキャラを立てている。その触媒としてフラットに気の良いヤツである虎杖がネアカと言う死語気味な属性で輝いて魅力的な主人公となっていた訳だ。人気投票も一位だ。

 

しかし芥見下々は苦手だとぶっちゃけた。

 

よろしくない兆候である。冷静に言えば書かなくていいし、書くべきでもない。編集は止めるべきだった。疲れてるんだろう。別に苦手でもいい。苦手っぽいな、と読み手から見て感じる作品も多数ある。ただ、公言するのはよくない。おっさんがジャンプを読んでる分にはそんなもんだと受け入れられるが、メインとなる中高生、虎杖を好きで読んでるような読者には結構キツい言葉になってると思う。ほぼ呪いの言葉だ。

 

作者が主人公を蔑ろにしだすと物語のバランスは壊れる。

 

主人公はその性質上、物語から苦難を受ける。読者はそれをいつかは乗り越え、成長するものだと思って受け止める。作者は主人公が嫌いでそう言う話を作ってる訳じゃない、と一般的に判断しているからだ。例外はもちろんある。鬱エンド、報われない話、しかしそれもあくまで読者の一般的な判断を裏切りつつの説得力で成り立つものだ。歪んでいるにしても愛情はあるだろう、と言うような。進撃の巨人とかそうだろう。

 

しかし作者が主人公を嫌っているとしたら?

 

読者が好きな主人公をいじめるヤツになってしまう。苦手と表明したことが嫌っていることとイコールではないにしても、疑念を呼ぶ。それは物語の受け手である読者にいい影響を与えない。同時発売の2冊の虎杖出演シーンは少ない。アニメ化が決まったことで五条の封印という山場を前倒しにするべくバックボーンを描くしかなかった構成的な事情は汲める。今日明かされた夏油の正体を踏まえるともうここしか入れる場所はなかったし、物語としては面白い。

 

しかし虎杖を描きたくないだけでは?

 

そんな風に斜めに見ることもできる。本誌を見てても出番が薄い。五条の封印にあんまり絡めてない。尖った術師や呪霊とのバトルは楽しい。だが、主人公が不在では嫌われそうなキャラばかりなのだ。尖りすぎている。そこが味だとしても、そればっかりではくどい。尖ったスケバンばっかり登場するのと実は変わらないのではと思う。

 

鬼滅の爆売れにつづけるか。

 

虎杖と炭治郎の役割は似ている。どちらも普通ではなく、しかし素直で物語の入り口としてわかりやすい男なのだ。いい主人公たちだ。その強みを十分に使うべきだと思う。五条の話が終わった後が正念場だ。この最強男がいなくてもテンションを維持できるか、8巻の中学のクラスメイトの話は良かった。メインの3人組のバランスを上手く回して欲しい。