魔王とムラ王

寒さに目を覚ます。

暖炉の火は消えていた。どうやら薪が足りなかったらしい。日に日に朝の空気が冷えている。この地に来て三日が経つがどうやら冬が迫っているようだ。山間の小屋は雪で埋もれると父が言っていたことが思い出される。

道理で実りも少ない訳だ。

「冬支度をしなければな」

私は昨夜には食う気になれなかった酸っぱすぎる木の実を噛み潰しながらつぶやく。見通しが甘かった。まさか魔力が存在せず、魔法が使えない土地だったとは。

なにから手をつけるべきか。

ここ二日で荒れ果てた小屋の周囲をある程度まで片付けたが小さな鎌と錆びた手斧だけでは小屋そのものを修繕して隙間風を塞ぐことは難しいだろう。道具がいる。マッチという火起こしのためのものも残りが少ない。

火を絶やさないための薪の確保も……。

「もしもーし、勝手に住んでるひとー?」

コンコン。

鍵のないドアを開けて戸を叩きながら女が呼びかけていた。不躾である。だが、人間だ。この土地のことを知っているだろう。情報を得るにはいい相手と言える。

「なんだ」

「お、おお、でっかいな……おじさん」

私が近づくと女は少し後退りをして見上げた。魔族であれば子供のような背丈だが、肉体の様子からすると子供は作れそうである。人間は小さいと父も言っていた。

「おじさんではない。魔王だ」

「魔王?」

「魔界を統べる王だ」

「ふーん? 偉そうだね。じゃ、あたしはさしずめ村を統べるムラ王だ。むらぁおう、むぁおう、まおう。はい。互角。いい?」

奇妙な女だった。